「父に言われてなかったら今の自分はない」
映画が繋いだ家族と人生
ーーお父様も映画がお好きだったそうですね。
「父が本当に映画がもう大好きで、マニアというレベルを超えるくらいの映画好きで(笑)我が家に黒澤、ゴダール、小津、セルジオ・レオーネ、トリュフォー、アンジェイ・ワイダ、ベルトルッチ、アントニオーニ、、ピエトル・ジェルミ、タルコフキー、ましてやセルゲイ・エイゼンシュタインの映画までがあったので、映画の博物館みたいで楽しかったですよ。
子供の頃に毎週末、映画館に連れて行ってもらったんですけど、子供だから寝るじゃないですか。そうすると『お前寝たからもう一回行くぞ』みたいな、それくらい強制的に映画を子供に観させる感じの父だったので(笑)。ほぼ英才教育のような感じでしたね。
家でも世界中のありとあらゆる映画がいつも家のテレビで流れていたし、自然と映画が好きになりました。まさしく子供の頃から空気のように映画を吸収して育っていったという感じでしょうか」
ーー子供の頃から映画漬けで、嫌いにはならなかったんですね。
「ならなかったですね。今考えると息子が父親とキャッチボールするようなことが、自分にとって父親と映画を一緒に観るという行為だったのかなと。
映画の付加価値として、家族との思い出があるからこそ、10代初期に家で観たゴダールとかキューブリックの映画が、よく分からないながらも『いいな』と思えたんだと思います」
ーーそれは本作の愛情や家族などのテーマに繋がっている気がします。アメリカ留学中にお父様がご病気で倒れて、一度帰国されますね。その後、お父様から『アメリカに帰れ』という言葉があったそうですが、再び戻られたのでしょうか?
「戻りましたね。その当時、父が本当に危うい状態でした。アメリカで映画監督になりたいという僕の夢の唯一の理解者である母すらからも『今すぐ日本に帰ってきて!大学を辞めて、そのまま父親の看病しなさい!』とマジギレされて…。
それまでずっと母に自分の夢を応援してもらっていたので、その母にそう言われたので、もう言い返す事もできなく…。その時は“俺の夢がもう叶うことはないんじゃないか…”と世の中がいきなり真っ暗に思え、いきなり鬱病みたいになっちゃって。無気力になり、寝込んでしまったりして…。
その当時、実家に三国志の漫画全巻60巻があったんですけど、その後、虚無状態でただひたすら毎日、三国志を読み続けてて(笑)。ある日友達から『お前今、日本で何やってるんだ?』って電話がかかってきたら『昨日は三国志の44巻を読んで、今日は45巻を読んでるところだ』とか言ってましたね(笑)。
あの時、父にアメリカに帰るよう言われなかったら今の自分はないので、本当に転換期でしたね。また、今まで色々ありましたけど、映画を嫌いになったことは一度もないんですよね。『映画に疲れたから、ちょっと離れようかな』と思うことはあっても、映画そのものはいつでも大好きだし、映画を教えてくれた家族との関係もあるからこそ、なんとか土俵際で生き残って来れたのかなって思います」
ーー映画そのものに家族との思い出やエピソードが沢山詰まっているのですね…素敵です!今後どんな映画を作りたいですか?
「演者として日本人が出てて、セリフも日本語なんだけど、、アメリカ人やヨーロッパ人が監督したような作品とでも言うのでしょうか。アメリカ映画的な遠慮ないダイナミックさ、そして、ヨーロッパ映画的な繊細なスタイリッシュさがうまく混ざり合ったような映画が作りたいですね。それはまるで、自分が子供の頃から見てきた大きく影響を受けた映画監督たちの映画を全て混ぜ合わせたような映画!というか(笑)。
今作『TOKYO, I LOVE YOU』においてははシンプルでダイレクトで、老若男女問わず誰もが楽しめるような、お客さんを選ばないようなうなエンタメ作品を初めて作れたような気がしたので、次回作ははもっとスケールの大きな映画で、日本映画として作っても、そのままハリウッドに持って行っても通用するような、またはそのまま一切内容を変えずに海外でリメイクできるような、日本発信の究極の娯楽映画を本気で作りたいですね」
ーー楽しみです。最後に本作をこれから観る方にメッセージをお願いします。
「今、日本は最大の円安とかで世界的に見ても元気がないし、日本人は自分たちのことを批判しがちな側面がありますが、でも海外の多くの人達から見たら、本当は日本は物凄くクールな国だし、海外に住む多くのみんなの憧れの場所なんですよね。だから『東京人、強いては日本人は十分にすごいし、、僕達、みんな素晴らしい場所に住んでて、素晴らしい人生を送っているんだ』ってことを映画を通して誰かが言わなくちゃいけないんじゃないかと思っていて。
今の時代って、勝ち組負け組、夢を叶えた人、そうじゃない人みたいな二元論で分けがちだけど、でも世の中の90%以上の人は夢叶ってないし、夢を叶えることだけが人生で重要なわけじゃないと思うんです。日々の生活の中にある自分なりの美しさを感じて欲しいし、何者にもならなくていい、自分たちの人生を肯定して、“他の何者にもなる必要はない。今のあなた自身でいいんだ”ってことを伝えたいですね」
【作品情報】
『TOKYO, I LOVE YOU(トーキョー、アイラブユー)』
主演:山下 幸輝
出演:松村龍之介、羽谷勝太、坂井 翔、島津 見、下前祐貴、西村成忠、加藤ナナ、草野航大、奏 みみ、小山璃奈、オギー・ジョーンズ、長谷川美月、テリー伊藤、田中美里、他
監督・脚本:中島 央
制作:株式会社ウィスコム
配給:ナカチカピクチャーズ
製作:「TOKYO, I LOVE YOU」製作委員会
公式サイト
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