随所で繰り返される不穏な電子音のメッセージとは?~音楽の魅力~
喜怒哀楽のいずれにも属さない、複雑な感情を描く本作において、音楽は重要な役割を果たしている。音がベッドの上で物語を淡々と語り出す冒頭のシーンでは、劇伴とも効果音ともつかない、不穏な電子音が低く響きわたる。この電子音は、家福と高槻が向かい合って言葉を交わす後半の重要なシーンにおいて、ボリュームを上げて変奏される。家福と高槻が話題にするのは、両者が愛した女性(音)に他ならない。トーンを変えて反復される電子音は彼女の気配をさりげなく表現しているのだ。
音楽を担当したシンガーソングライターの石橋英子は、ピアノをメインとしながら、ドラムやフルートなど複数の楽器を演奏するマルチプレイヤー。本作では単一のエモーションに還元できない抽象的な音楽で、万華鏡のような作品世界をミステリアスに彩る。
石橋英子によるオリジナルスコアに加え、既存のクラシック音楽もきわめて印象的な使われ方をしている。家福が音の浮気現場を目撃するシーンで鳴り響くのは、モーツァルト作「ロンド ニ長調 K.485」である。また、家福が車の中でベートーヴェン「弦楽四重奏曲第3番ニ長調作品18-3」の第1楽章「アレグロ」を流すシーンも強いインパクトを放つ。ちなみに後者は、村上春樹の原作小説(「ドライブ・マイ・カー」)にも登場する。
《主な使用楽曲》
モーツァルト「ロンド ニ長調 K.485」
ベートーヴェン「弦楽四重奏曲第3番ニ長調作品18-3」の第1楽章「アレグロ」
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