「自分の演技を見るのは嫌だった」東出昌大、役者人生を振り返る。独占ロングインタビュー【前編】桐島からクリーピーまで
2012年の映画デビュー以来、日本映画の最前線に立ち続けている俳優の東出昌大に役者人生を振り返ってもらうロングインタビューを敢行。【前編】ではデビュー直後の悪戦苦闘、染谷将太、高良健吾といった同世代の役者から受けた影響、吉田大八や黒沢清をはじめとした名監督達とのエピソードをお届け。(取材・文:山田剛志)
「絶対落ちたなと思った」
デビュー作『桐島、部活やめるってよ』のオーディション秘話
―――今回、東出さんに役者としてのキャリアを振り返っていただくことで、読み手に、東出さんの映画に対する考え方、演技に向ける心構えをお伝えできたらと思っています。東出さんは、ファッションモデルからキャリアをスタートさせていますね。モデルのご経験は役者をやる上で活きていますか?
「それが活きてないんです。モデルから役者に転身したばかりの時に、こんなにも違うのかと思って困惑したことを憶えています。もっとできると思っていたのに、全然ダメだなと。『桐島、部活やめるってよ』(以下、『桐島』)でデビューして以降、数年間は役者という職業の難しさを痛感し続けていました。根本的な部分では今も変わらないのですけど」
―――『桐島』のオーディションで印象的だったエピソードはありますか?
「一次オーディションで『芝居をやったことがない』と言ったら、スタッフの方に『ここが学校の廊下だと思って。落ちている携帯電話を拾って、これ誰のだろうって顔をして』って言われて。
それぐらいは日常の一幕でもあることなので、携帯を拾って『これ誰のだろう』って顔をしたら、『はい、じゃあお疲れ様でした』って言われて。『え、もう終わり?』みたいな(笑)。絶対落ちたなと思っていたら、次も呼ばれ、その次も呼ばれて」
―――『桐島』には東出さんと同世代の俳優たちが沢山ご出演されていますね。オーディションの時から交流はありましたか?
「オーディションでは、3人1組になって芝居をする審査があって、現在ではとても仲良しの落合モトキ君がその時一緒だったんですけど、初対面の落合君に『東出と申します。これから一緒にオーディション受けるんですよね。一緒に台本読みませんか?』って言ったら、『いや、結構です』と言われてしまって(笑)。
当時は『コイツ!』と思いましたけど、撮影が始まったら『なるほどな』って。彼は子供の頃から演技のお仕事をしていて、セリフを言うことにも慣れていた。でも僕は、人前でセリフを口にするなんて、恥ずかしくてしょうがないっていう状態でした」
―――『桐島』で東出さんが演じられた“宏樹”という役は、野球部に所属してはいるけど、久しく顔を出していない。クラスの中心にはいるけど、その場を楽しんでいるわけではない、モラトリアムな気分に囚われているキャラクターでした。当時の東出さんは、ご自身の進路を模索する時期だったというのもあって、役にシンパシーを覚えるようなところもあったのかなと想像するのですが、いかがでしょうか。
「どうでしょうか、当時はそんなことを考える余裕はなかったと思います。当時、“宏樹”という役を考える上で示唆的だったのは、原作にある『君たちは真っ白なキャンパスです』という一節。
これは全校集会で校長先生が発する言葉なんですけど、白いキャンパスって言われたって、そこに何を描けばいいのかわからないといった描写が原作小説にあるんです。それはまさに僕が学生時代にずっと抱いていた感覚で、僕より年下の朝井リョウ君の卓越した文章力によって見事に言い当てられたと思いました。
ただ、気持ちはわかるけど、それをお芝居で表現するところまで想像が追いつかず。少ない言葉の中で堂々巡りをしていましたね」