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「桐子としてカメラの前にいて」
印象深い父親との対話シーンについて

©2023 東京藝術大学大学院映像研究科
©2023 東京藝術大学大学院映像研究科

―――物語や人間関係の全体像が見えないところが面白いという話と関係するのですが、桐子が同居人の女性(メーちゃん)と一緒に暮らすことになった経緯や、彼女が妊娠に至った経緯などは劇中で説明されません。演じるにあたってバックボーンは掘り下げられたのでしょうか?

「それはメーちゃん役のBEBEさんと事前に話し合いました。とは言うものの、監督を交えて3人でただお喋りしただけに近いんですけど。私たちが考えた設定としては、パートナーは元々いたけど今はいない。メーちゃんは自分で子供を産んでいくことを選んだっていうことくらいですね」

―――桐子が帰省して父親と会話するシーンも見応えがあります。まず、自転車で通える距離に実家があるという…。

「確かに。『こんな近くにあるんかい!』って思いますよね」

―――役を解釈する上で取っ掛かりになったのでしょうか?

「桐子は映画を作って生きていく上で、自分の巣が欲しかったと思うんですよね。ただ、チャリンコで行ける距離とはいっても、別にしょっちゅう行くわけじゃないと思っていて。

このシーンでは、誰にも相談相手のいない桐子が、父親を頼るとまではいかないけど、映画や生活から少し離れて、別の言葉に接したいと思って向かったのかなと。そこではからずもテレビで紹介していたラッキーアイテムの焼きそばを食べることになるという」

―――焼きそばが絶妙だと思いました。汁物やチャーハンだとお芝居のテイストも微妙に変わったかもしれませんね。

「そうですね。汁物とかチャーハンだと温もりがあるので、温かみを感じちゃうと思うんですよ。でも、桐子のお父さんはもっとドライというか、桐子来たし、焼きそばでも作っとくか、みたいなラフさがある。あそこで2人の関係性が見えますよね。ちゃんとしたご飯を用意してくれるわけでもなくて」

―――麺をすする動きに合わせて顔を上げる。顔を上げた先に物が見える。このシーンで桐子は上の方を見て笑みを浮かべますが、視線の先をカメラは映しませんね。

「すごく細かいところを観てる(笑)。このシーンは実際の自転車屋さんをお借りして撮っているんですけど、たまたま上見たら“自分の力で頑張れ”みたいな格言が書かれてあったんですよ。それはお店の方の私物で、たまたま置いてあっただけなんですけど、それを見た時になんか笑っちゃって(笑)。

それは桐子としてカメラの前にいて、出た生の反応というか。監督から『何か上にあるの?』って言われて、『いや、たまたま上を見上げたらさ、あれがあったから笑っちゃったんだ』みたいな話をしたら、『そうなんだ』って。で、違うパターンも撮ったんですけど、結局あのテイクを使っていたから気に入ってもらえたのかなと」

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