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綿密な取材に基づいた裁判の描写〜演出の魅力

周防正行監督
周防正行監督Getty Images

『シコふんじゃった。』(1991年)『Shall we ダンス?』(1996年)で知られる周防正行が11年ぶりにメガホンを取った作品。主演は『重力ピエロ』(2009年)の加瀬亮。公開当時は、第80回アカデミー国際長編映画賞に日本代表作品として出品されるなど、大きな注目を集めた。

あらすじからも分かる通り、本作では「痴漢の冤罪事件」という身近なテーマを題材に日本の法制度の不条理を描かれている。しかし、堅苦しさはなく見ていて退屈することもない。それどころか、全編に散りばめられた法制度の真実の数々に「そうだったのか」と膝を打つこと請け合いだろう。

例えば、本作の冒頭に出る「十人の真犯人を逃すとも一人の無辜を罰するなかれ」という言葉は刑事事件の大原則とされている。しかし、日本では無罪になるのはなんと1000人に1人で、有罪率は99.9%。「疑わしきは罰せず」ではなく「疑われると罰せられる」という思いもよらない現実が詳らかになる。

ちなみに、本作の主人公には複数のモデルがいるとされている。そのうちの一人は、2000年に京急線の電車内で女子高生の下半身を触ったとして、懲役1年6ヵ月の実刑判決を受けた男性。周防は事件記録を読み、男性と面会をした上で無罪を確信し、後に再審請求のための証拠となる「再現ビデオ」の制作を買って出ている。

初長編作品『変態家族 兄貴の嫁さん』(1984)で小津安二郎を模倣した画面構成でピンク映画を撮り、大ヒット作『Shall we ダンス?』では良質な娯楽映画をものにしてみせた周防正行。そんな名監督が、逆転裁判の関係者へのインタビューや刑事裁判の傍聴など、足かけ3年にわたり取材を行い、リアリスティックな筆致で痴漢冤罪事件の実態を世間に知らしめた、裁判劇の名作である。

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