「棒読みセリフ」が必要とされたワケ~配役の魅力~
本作のキャストは、なんと総勢328人。長谷川博己を筆頭に、竹野内豊、石原さとみ、大杉漣、余貴美子ら、日本を代表する役者が固めている。しかし、彼らは決して白熱の演技合戦を繰り広げているわけではない。むしろ現場では、セリフを必要なタイミングで言うことが求められ、過剰な演技は封じられたという。
なぜ彼らは「演技しない」ことが求められたのか。理由は主に2つ。一つ目は、この映画の主役が「ゴジラ」だからである。「ゴジラ」という怪獣を際立たせるために、彼らは「無個性の集合体」であることが求められたのである。
2つ目は、本作の監督・庵野がもともとアニメの監督だったという点が挙げられるだろう。当然だが、アニメは映画と異なり、偶然性はない。ストーリーからセリフに至るまで、すべてアニメーターの采配に委ねられている。同様に本作でも、監督の「アンダーコントロール」のもと、撮影が行われたのである。
なお、本作では唯一、自由に演技することが求められた役がある。それが「エキストラ」である。撮影にあたり、彼らには、1枚の紙が手渡された。この文書は後に、シーンの場所を捩って「蒲田文書」と呼ばれることになる。そこには、このように書かれていたという。
“もし本当に巨大不明生物に襲われた場合、人はその人の個性によって違った反応をすると思います。猛ダッシュで逃げる人、ノロノロと逃げる人、体が固まり動けない人、(中略)…それらの個性の集合体が、画面に力強さと、リアリティと、本物の恐怖を与えてくれると、我々はそう考えています。”(「蒲田文書」より)
映画冒頭、ゴジラが街に襲来するシーン。本シーンは、彼らの熱意のおかげで、迫力あるシーンに仕上がっている。しかし、そんな彼らの演技ですら、本作では「集合体」の一つでしかないのかもしれない。