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普通の人として”擬態”するための“偽装結婚”

©2021 朝井リョウ/新潮社 ©2023 「正欲」製作委員会
©2021 朝井リョウ新潮社 ©2023 正欲製作委員会

新垣結衣演じる夏月と磯村隼人演じる佳道は、ある特殊な性的嗜好を持つ人間であり、お互いに、両親含め誰にも打ち明けられず、孤独に打ちのめされていた。二人は、この世界で普通の人に“擬態”するために“偽装結婚”という手段をとる。

新垣結衣で偽装結婚といえば、TBS系ドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』(2016)(以下、「逃げ恥」と表記)が思い浮かぶ。

「逃げ恥」では、新垣演じるみくりは、津崎平匡(星野源)を雇用主として、家事を仕事として給料が発生する“契約結婚”という形式を採っていた。両者の間に恋愛感情は無く、入籍はしていなかった。(最終的には恋愛関係となり、正式に入籍したことで雇用関係ではなくなった)

本作においての夏月は、まず佳道との間に恋愛感情は無い。家事は各々が自己責任でやっており、食事も各自で用意する基本ルールを設け、そして入籍をしている。

この“偽装結婚”の面で、興味深かったのは、夏月と佳道は、結婚が恋愛の先にあるゴールだと思い込んでいる節があったところだ。二人は「今のこれ以上に、異常なことなんてある?」などと笑い混じりに話す場面もある。

結婚している人が全員、恋愛結婚とは限らないし、抱える事情が二人と異なるかもしれないが、同じく利害の一致で結婚というシステムを利用しているケースを想像していないように見えた。

自分たちの抱える事情を「ありえない」と切り捨てる啓喜を筆頭に、いわゆる世間一般の“普通の人”たちの視野の狭さを、夏月たちは痛烈に批判する。と同時に、事情を抱える夏月たち側の視野の狭さも劇中で描かれているように見え、そこに制作陣の、ある種の公平さが感じられた。

また本作では、滝、川、水道、噴水などあらゆる水が美しく映し出される。それらの映像に反射的に見惚れてしまうのだが、少し遅れて、同じものを見ても違う感情を抱く人のことを想像し、観客側である筆者自身の視野の狭さも浮き彫りにさせられたと感じた。

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