中国の観客を惹きつけた『すずめの戸締り』の物語性
さて、本題の『すずめの戸締り』である。中国では『君の名は。』を超える成功を収めた背景について、ここまで観てきた歴史的なポイントを踏まえると、 ①海賊版文化によってじわじわと新海ブランドが熟成されていったこと、②中国の映画市場の拡大、という2つのポイントが挙げられるだろう。
しかし、徐氏によると『すずめの戸締り』の中国でのスマッシュヒットを考察する上で、上記に加えて、さらに複数のポイントを考慮する必要があるという。一つ目は物語性だ。
「『すずめ戸締り』では、東日本大震災を正面から描いています。オーバーグラウンドの映画において、社会的な問題を扱う作品は稀ですが、本作は果敢にそれに挑戦しています。
日本ではこれまでも災害を描く作品が多く作られてきましたが、当事者のいるセンシティブな内容であるため、観客の輪が大きく広がることは少なかった。
一方、中国では、歴史的な悲劇を小説や映画によって積極的に語り継いでいこうという風潮が強く、『すずめ』はアニメファン以外にも、東日本大震災や日本の今について知りたいと思っている人たちが多く劇場に駆け付けました」(徐昊辰氏)
さらに徐氏は、『すずめの戸締り』の中国での成功を考える上で無視できない要素として、意外なトピックを挙げる。