「何がそんなに面白い?」映画『スラムダンク』レビュー。元・Jリーガーがアスリート目線で深掘り考察【あらすじ 評価 解説】
12月3日より公開されるや、大反響を呼んでいる映画『THE FIRST SLAM DUNK』。公開前には否定的な声も聞かれたが、蓋を開けてみると、その高いクオリティで原作ファンならずとも魅了。二度、三度観ても楽しめる作品に仕上がっている。今回は、Jリーグの徳島ヴォルティスで活躍した経験を持つ井筒陸也さんに、アスリートならではの視点から、映画『スラムダンク』の魅力を解説してもらった。
※この記事は物語の結末に触れています。未見の方はご注意ください。
【執筆者:井筒陸也 プロフィール】
1994年2月10日生まれ。関西学院大学サッカー部で主将として2度の日本一を経験。卒業後はJリーグの徳島ヴォルティスに加入。2018シーズンは選手会長を務め、キャリアハイのリーグ戦33試合に出場するが、25歳でJリーグを去る。現在は、新宿から世界一を目指すクリアソン新宿でプレーしつつ、同クラブのブランド戦略に携わる。現役Jリーガーのときにnote(ブログ)を開始し、フォロワーは23,000人超。2022年に初著「敗北のスポーツ学」を出版。無類の映画好き。大阪府出身、新宿区在住。
バスケならではの魅力は観客との“一体感”
効果抜群の無音演出の真髄とは?
僕は、ずっとサッカーの世界で生きてきて、2016〜2018年はJリーグでプレーをした。その後、新しい挑戦がしたくなり、契約更新のオファーを断って「新宿からJリーグを目指すサッカークラブ」に移った。そこでも3年間プレーをし、一昨年に引退。現在は、同サッカークラブでPRやマーケティングの仕事に従事している。
映画が大好きで、徒歩圏内で単館系からTOHOまで揃う新宿の街でその幸せを噛みしめている。今回はご縁をいただき「元Jリーガーが話題の映画『THE FIRST SLAM DANK』を観たら」というテーマでレビューを書かせてもらうことになった。早速だが、自己紹介はそこそこに内容に入りたいと思う。
本作を語る上で、まず触れなければいけないのは、その映像美についてだ。「モーションキャプチャー」なる技術が使われたプレーシーンは、素人目でもリアリティがあった。ただ、僕はその領域に明るいわけではないので、詳細な説明は他に譲ることとしよう。
もう一つ、避けて通れないのは、この劇場版のオリジナルの “筋” についてである。本作の大枠の内容は原作のままだが、その真ん中に新しいエピソードが横たわっている。それは湘北高校のメンバーの一人、宮城リョータの過去だ。言われてみればキービジュアルも宮城が正面に置かれているし、”THE FIRST” もPG(ポイントガード)=1番をつとめる宮城を示唆しているという考察記事もあった。
原作では、宮城リョータの描写はやや少なかったように思う。他のメンバーは、桜木は言うまでもなく、バスケの上達に執着する流川、周囲から疎まれながらも日本一を目指した赤木、ヤンキー三井など、回想シーンも含めかなり紙面が割かれていた。
しかし宮城に限っては、彩子との恋も真剣味に欠けたし、「小柄な身体でどう闘うのか」という文脈も先の4人と比べるとずいぶんテクニカルな葛藤である。彼の人間性が深掘られたとは言い難く、結果として少し引いたスタンスの大人びた印象が残っている。本作では、なぜ彼がそのような青年になったのか、その伏線が回収されるという点でも、ストーリーはややベタだが興味深く鑑賞することができる。