人間が抱える不器用さを描出した
「面影」をめぐる物語
「人をわかるって、どういうことですか?」これは、悟を捜索する探偵・山崎が、カナエにつぶやくセリフだ。一見だらしなそうな風貌から山崎を見くびっていたカナエは、想定外の言葉に思わず絶句してしまう。原作でも本作でもハイライトとなるシーンだ。
私たちは、他者と触れ合う中で、つい相手をまるごと分かったような気持ちになってしまう。しかし、人の心というのはそこまで単純なものではない。現にカナエも、悟の失踪を知り、自身が本当の悟ではなく、影しか見ていなかったことに愕然とする。
そう、本作は「面影」をめぐる物語でもある。作中でカナエは、失踪した人物の面影を追い、子供の頃の友達の面影が、彼女の人生に影を落とし続ける。また、堀もカナエにとある人物の面影を重ねる。
彼らは、まるで水面に自分の顔を映すように他者に自分の姿を重ね、求め合ったり憎しみあったりする。しかし、奥底の流れには気づけないー。
そんな誰もがかかえる不器用さが、『アンダーカレント』には描出されているのだ。