原作の雰囲気を忠実に再現
人間の心の揺れを描き出すカメラワーク
本作では、監督の今泉がこういった人の心の微細な揺らぎを、スローテンポな演技の中でじっくり丹念に描出している。作品全体の寒色系の淡いトーンと相まって、まるで水の中の出来事のようでもある。
内容も概ね漫画通りで、今泉自身の原作への並々ならぬリスペクトが感じられる。真木よう子や井浦新、江口のりこ、リリー・フランキーといったキャスト陣も漫画の中から出てきたような再現度の高さで、原作ファンも満足のいく出来栄えになっている。
また「ダークホース」としては、田島役の康すおんの演技がなんとも素晴らしい。
原作では完全なコメディリリーフ(名前はサブじい)で、ヤクザまがいのテキ屋という設定だった田島だが、本作では街の歴史の生き証人であるタバコ屋という設定になっており、飄々とした印象はそのままに温かさがプラスされている。
とりわけ田島が、高台から街を見ながら、かつて町であった「事件」について語るシーンは、独特のハスキーボイスも相まって観客の心に沁みること間違い無いだろう。
ちなみに、音楽は細野晴臣が担当。ピアノの旋律を貴重とした静謐な音楽で、物語に花を添えている。特にエンディングテーマは、リフレインと響き渡る鉄筋のような音色がうねるような水の流れと水面の反映を思わせ、繊細な印象の本作にぴったりの曲に仕上がっている。
原作漫画のファンも、今泉作品のファンも、そして、原作も今泉作品も見たことのない観客も、誰もが楽しめる作品に仕上がっている。この秋、ぜひとも映画館に足を運んでほしい。
【作品情報】
出演:真木よう子、井浦新、リリー・フランキー、永山瑛太、江口のりこ、中村久美、康すおん、内田理央
監督:今泉力哉『愛がなんだ』『ちひろさん』
音楽:細野晴臣『万引き家族』『メゾン・ド・ヒミコ』
脚本:澤井香織『愛がなんだ』『ちひろさん』、今泉力哉
原作:豊田徹也『アンダーカレント』(講談社「アフタヌーン KC」刊)
製作幹事:ジョーカーフィルムズ、朝日新聞社
企画・製作プロダクション:ジョーカーフィルムズ
配給:KADOKAWA
コピーライト:Ⓒ豊田徹也/講談社 Ⓒ2023「アンダーカレント」製作委員会
公式 HP:https://undercurrent-movie.com