キャラクターの内面をさりげなく表現する松村北斗の演技
山添は高身長のやせ型で、黒髪の地味なタイプ。襟足が伸びてもっさりとしている。見た目の印象からは、趣味・趣向が伝わってこず、共通点や会話のきっかけが掴みづらい。
おまけに発する言葉もどこか冷たくてそっけなくて、見えない壁を感じさせるタイプ。誰かと談笑することもなく、ひとりで淡々と仕事を進めている。わかったことと言えば、仕事のお供は無糖の炭酸水とガムであることぐらい。もし山添が会社の同僚だったら……何を話していいのか分からず距離をとってしまうだろう。個性を隠し、含みのある芝居にまず引き付けられた。
松村は、髪を伸ばし、瞳の輝きも笑顔も消して、気だるさと寡黙な雰囲気を漂わせる。掴みどころがないように思えたが、あることをきっかけに見えない壁が崩れていく。藤沢との会話を重ねながら、静かに心が動いていく過程を丁寧に演じている。
そして芝居の奥行きだ。予告映像でも公開されている山添が駅のホームに立つシーン。体を大きく動かすことも声を出すこともなく、小さく頷いていた。そんな仕草からは、山添はきっと心の中では恐怖心と必死に戦っていたのだろう。自分のことでありながら心と体がうまく繋がっていない様子が伝わってきた。