ごく普通の日常生活を舞台にしたからこその魅力
本作では音も活かされていた。藤沢がハサミを入れてジョキっという独特な音。新幹線がビューンと走り抜けていく走行音と、山添の行動の対比も面白い。劇伴も優しく心地よく響いて、すんなりと物語の世界へと誘ってくれた。
そして、様々な事情を直接的に描かない場面が多く、部屋に置いてあるものや言動から情報を受け取ることが多かったのも印象的だ。でも、職場の同僚ってそういうものかもしれない。家族や友達、恋人でもないのだ。たまたま同じ職場で働くちょっと近いだけの存在。
持っているものや口癖、洋服、髪型…見聞きしたものからなんとなく知っていく。その中で山添と藤沢は、互いが抱えているものがわかり、コントロールの効かない経験を持つ自分だからこそ、わずかでも相手の役に立てることがあるかもしれないと距離を保ちながら心を寄せる。