ホーム » 投稿 » 海外映画 » レビュー » 映画「パンチドランク・ラブ」一風変わったラブコメで唯一無二の映画体験を<あらすじ 考察 解説 評価 レビュー> » Page 6

パンチドランク・ラブ 映像の魅力

映画『パンチドランク・ラブ』の1シーン。逆光を活かした技巧的な映像
映画パンチドランクラブの1シーン逆光を活かした技巧的な映像Getty Images

一般的なラブコメ映画の枠組みを大きく逸脱する本作の実験性は、映像面でも水際立っている。

主人公が路上でオルガンを拾うシーンでは、マジックアワー(日没後、日の出前のおよそ10分間だけ体験できる薄明の時間帯)の美しい光がフレームいっぱいに広がり、バリーとリナが車内で会話を交わす場面では、モヤがかかったような淡い光のもと2人のクローズアップが交互に示され、背景ではブルーライトが走馬灯のような効果を発揮し、幻想的なムードを表現している。

海辺の宿泊施設で2人が抱き合う姿は逆光のシルエットで示され、すこぶるロマンティックである。このカットは寄せては返す波がさりげなく背景を彩っており、画面を横切るエキストラのメリハリのある動きも素晴らしい。

撮影、演出、ロケーションの三拍子がピタリと揃った、まさにハイライトと呼ぶに相応しい名カットである。逆光を活かした映像はなんとも慎ましいベッドシーンや、バリーとディーンが直接対決する場面でも見られ、後者のシーンでは、鼻がくっつくほどの距離でメンチを切り合う両者の顔は影に覆われてよく見えない。

本作では、マジックアワーの淡い光、鋭利な直射日光、色鮮やかなカラーライトなど、自然光、人工照明問わず、多種多様な光がフィルムに焼き付けられている。映像は物語を説明する役目を離れて、光を用いた化学実験を試みているようだ。

あまりにも“凝りすぎている”本作の映像は、役者の表情をクリアに見せることを何よりも優先するハリウッド映画の原則から逸脱しており、ヨーロッパの芸術映画に近い手触りを持っている。

1 2 3 4 5 6 7 8