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パンチドランク・ラブ 音楽の魅力

音楽監督を務めたのは、PTAの処女作『ハードエイト』(1996)や第3作『マグノリア』のスコアも手がけたジョン・ブライオン。PTAはブライオンとのタッグを本作で解消し、次作の『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』(2007)以降は、ジョニー・グリーンウッドに劇伴を託すことになる。

ジョン・ブライオン
ジョンブライオンGetty Images

ともあれ、ブライオンが担当した本作のサウンドトラックは有終の美を飾るに相応しい、素晴らしい出来栄えである。バリーとリナが初めて口づけを交わすシーンでは、高揚感のあるメインテーマが鳴り響き、両者が距離を縮めるタイミングで音調は激しさを増す。

演出面と映像面ではエキセントリックな仕掛けが目立つ本作だが、音楽面ではオーソドックスを極めており、まるで往年のハリウッド映画を観ているような気分に浸らせてくれる。バリーがゆすり屋グループから襲撃を受ける場面ではノイジーな音響が使用され、的確な効果を発揮。登場人物同士が噛み合わない会話を繰り広げる場面では、スウィングしない不協和音が被さることによって、シーンの印象をグッと不穏なものにしている。

大半のシーンで音楽が使用されていることもあり、ミュージカルのような佇まいを持つ本作には、ブライオンによるオリジナルスコアに加え、既存の楽曲もごくわずかであるが使われている。

中でも、PTAがリスペクトを表明しているロバート・アルトマン監督の監督作である『ポパイ』(1980)のテーマ曲、「He Needs Me (彼は私を必要とする)」は本編やエンディングで大々的に使用されている。ドリーミーなメロディはオモチャ箱をひっくり返したような世界観とこの上なくマッチ。

また、この楽曲は主人公のバリーではなく、彼を限りない愛で包むリナの視点を示すものとなっており、作品の世界観を広げるような役割も果たしている。

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