インヒアレント・ヴァイス 音楽の魅力
ソウルミュージックの創始者であるサム・クックの楽曲から、坂本九によるヒットナンバー『SUKIYAKI(上を向いて歩こう)』まで、ジャンルや国籍の垣根を越えたサウンドトラックはバラエティに富んでいる。
音楽監督を務めたのは、PTAとの3本目のコラボレーションとなるジョニー・グリーンウッド。『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』(2007)、『ザ・マスター』(2012)では弦楽器による前衛的なサウンドを響かせ、一部の観客を困惑させもしたが、本作では古今東西の既成曲を巧みなセンスで繋ぎ合わせることで、聴く人を選ばない、普遍的な魅力を持つサウンドトラックに仕上げている。
上記以外にも数多くのアーティストの楽曲がシーンを彩っているが、とりわけニール・ヤングのナンバーは2曲も使用されている。ドックとシャスタがマリファナを手に入れるために土砂降りの雨の中を駆け回る回想シーンでは、ヤング自身が監督した映画『過去への旅路』(1972)のサウンドトラックに収められた楽曲、『JOURNEY THROUGH THA PAST』が流れる。
追想へと誘うニール・ヤングの詩と美しい歌声は回想シーンが終わっても持続し、ドックのジャンキー仲間・デニスが乗る車のカーステレオから流れる音色へと流れつく。音楽の響かせ方に変化をつけることで、センチメンタルな回想シーンから陰謀うずまく現在シーンへとスムーズに移行させる、素晴らしいサウンドデザインである。
ちなみに、ドックがウルフマンが経営する風俗店に潜入する序盤のシーンでは、レディオヘッドの未発表インスト曲『SPOOKS』が使用されている。
《使用されている楽曲》
レディオヘッド『SPOOKS』
ザ・カスケーズ『RHYTHM OF THE RAIN』
カン『VITAMIN C』
ニール・ヤング『HARVEST』
ニール・ヤング『JOURNEY THROUGH THA PAST』
坂本九『SUKIYAKI』