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ファントム・スレッド 映像の魅力

クラシカルな雰囲気と奇抜なカメラワークが混在する魅惑的な映像は、デビュー作『ハードエイト』以来6度ものタッグを組んできたロバート・エルスウェットや『ザ・マスター』を担当したミハイ・マラメイア・Jrではなく、複数のスタッフによる協働作業によって得られたものだ。

PTAがイメージのコンセプトを打ち出し、ライティングカメラマンのマイケル・バウマン、カメラオペレーターのコリン・アンダーソンが洗練された技術で具現化。アンダーソンは『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』以降の作品でオペレーターを務めた経験があり、バウマンは『ザ・マスター』、『インヒアレント・ヴァイス』で照明技師を務め、PTAが制作したRadioHeadやHEIMのミュージックビデオのライティングを手掛けている。

『ファントム・スレッド』のライティングを担当したマイケル・バウマン
ファントムスレッドのライティングを担当したマイケルバウマンGetty Images

長年の信頼で結ばれた鉄壁の撮影チームは、クランクインのおよそ9ヶ月前からテスト撮影を行い、理想のイメージを探求。スモークを活用した撮影技法によって、今風の透明感のある映像からは得られない年季の入った風合いを実現し、重々しくミステリアスな世界観を立ち上げることに成功している。

レイノルズとアルマが別れ話をめぐってヒートアップする食卓シーンでは、怒りのあまり前後左右に激しく揺れるアルマの予測不可能な運動を、端正な構図でとらえ続けるカメラの瞬発力のある動きが素晴らしい。一方のレイノルズは彼女にナプキンを投げられ、席を立たれてもジッとしているが、テーブルの上に灯されたロウソクの炎は終始微細に揺れており、心のさざなみをさりげなく表現している。

アルマがスープに毒を混入する瞬間は、鍋の底から彼女の顔を捉える、大胆なアングルのショットが採用され、観る者をギョッとさせる。また、登場人物の表情や動きのみならず、人々が身にまとう衣装、口にする食物、主要舞台となる屋敷もハッとするほど生々しい映像で描写されており、観る者は視覚のみらず、触覚や嗅覚をもしたたかに刺激されるだろう。

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