インパクトとバランス感覚を兼備したキャスティング
アメリカ社会の縮図を限定された空間内に作り出す
まず、歴代監督作でも屈指のキャッチーさを予告編にもたらしたキャスティングの妙について手短に指摘しよう。
小屋にやってくる怪しすぎる四人組のリーダーで、小学校教員とバーテンダーを兼業する男レナードを演じた、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』シリーズのドラックス役で知られる元プロレスラーのデイヴ・バウティスタは、物静かで理知的な人物像を実にチャーミングに演じ、新境地を開拓した。
シャマランは、彼の『ブレードランナー2049』(2017)でのそれまでと異なる演技を見て、オファーを決めたのだという。また、四人組の一人でガス会社に務める男レドモンドを演じたのは、『ハリー・ポッター』シリーズのロン役として誰もが知るルパート・グリントだ。
彼はドラマ『サーヴァント ターナー家の子守』 (2019-23)に続くシャマラン作品への出演となるが、今回も『ハリーポッター』のイメージとは似ても似つかない、『サーヴァント』での役柄にも通ずる精神的に不安定で危なっかしい攻撃的な中年男性というキャラクターに血の通った存在感を与えている。
マーベルとハリポタのスターが世界の滅亡を警告しながらお手製の武器をぶら下げて小屋に押し入ってくるというだけでジャンル映画のツカミとしては申し分ないわけだが、加えてシャマランは、少なくとも表面的なレベルでは、近年のハリウッド映画に求められる多様性やバランスの感覚を配役や設定に取り入れてもいる。
四人組のうち残る二人は女性であり、ナイジェリアにルーツを持ち『オールド』(2021)に続くシャマラン映画出演となるニキ・アムカ=バードが看護師サブリナを、アビー・クインがメキシカン料理店でシェフを務めるシングルマザーという役柄をそれぞれ演じている。
そして劇中では、四人組はいずれもブルーワーカーである一方、主人公カップルはより知的で裕福な階級に属していることが示される。
養子役には中国系の子役クリステン・キュイを据え、いずれもオープンリーゲイとして活動している俳優である、ジョナサン・グロフとベン・オルドリッジを主人公の同性カップル役に起用したシャマランは、原作を踏襲し当事者性にも配慮した上で、諸マイノリティの苦境や分断を織り込んだアメリカ社会の縮図を、限定された空間内に作り出そうとしたと、ひとまずはまとめられるだろう。