挑戦と遊び心に満ちた撮影にフォーカス
① シャマラン作品におけるカメラマンの変遷に注目
周知のように、興行収入・批評両面で復活作と評された『ヴィジット』(2015)以降、シャマランは毎回自宅を抵当に入れ、自ら製作費を捻出することで、自由な作品づくりを継続してきた。彼のキャリアを好転させた、予算削減の対象を場面転換に向け*3、限定された空間のみを舞台とするスリラー作品を量産するという、ある種の割り切りと覚悟は今回も健在だ。
しかし、回想場面を除いてほぼ山小屋内部と周囲の森で展開される本作の画面が、単調さに陥ることは決してない。この撮影面での充実ぶりはたとえば、日本で同時期に公開され、内容や設定にも本作と類似する要素をもつ『ザ・ホエール』と比較するとわかりやすいだろう。
もともと演劇がベースになっているとはいえ、舞台劇を撮影した映像とどう違うのか、はっきりと判断することの困難な場面が続く同作と異なり、『ノック』の撮影は徹頭徹尾、映画的な工夫にあふれている。
最初期に複数回タッグを組んだタク・フジモトをはじめ、『レディ・イン・ザ・ウォーター』のクリストファー・ドイルなど、『ヴィジット』(2015)までの作品ではシャマランは、いずれもベテランの撮影監督を起用してきた。
しかし、『スプリット』(2016)以降、『ミスター・ガラス』(2019)、ドラマ『サーヴァント ターナー家の子守』 (2019-23)、『オールド』(2021)でいずれも共闘したマイク・ジオラキスをはじめ、近年のシャマランは自分より年下の若手カメラマンを積極的に登用し、それぞれの撮影監督の個性を活かしながら、さらにおそらくは自らの演出意図をより反映させた画作りに注力することで、ジャンル映画史の更新を目論んでいるように見える。