挑戦と遊び心に満ちた撮影にフォーカス
③ ロバート・エガース作品との比較で際立つ古典性と革新性
屋内場面を担当したブラシュケについては、おそらくはロバート・エガース監督作からシャマランが受けた印象が、今作でのオファーにより関連しているだろう。
『スプリット』で起用したアニャ・テイラー=ジョイの名をホラー映画ファンに広く印象づけた、17世紀の魔女狩りを背景とする『ウィッチ』(2015)から古典映画の要素を盛り込んだ画作りに定評があったブラシュケは、19世紀末を舞台とした『ライトハウス』(2019)では、白黒の正方形に近い縦横比でフィルム撮影を行うなかで、灯台の内部という閉鎖空間で次第に狂気へと陥っていく二人の男の精神状態や閉塞感を巧みに視覚的に表現した。
彼とシャマランは、本作でも撮影を通じてある特定の時代の空気感を取り入れている。山小屋のシーンでは90年代のスリラー映画で人気を博したパナビジョンのPrimo Anamorphicというレンズを、回想場面ではその約10年前に発売された同社のUSG Panatar Anamorphicというレンズを採用し、35ミリフィルムで撮影を行うなかで*4、たとえば山小屋での執拗なピン送りに伴うガタつきをあえて強調するようなカメラワークで当時のスリラー映画の雰囲気を想起させつつ、回想場面には異なる感触を与えた。
だがシャマランは同時に、心理的な圧迫感を誇張するクロースアップの効果的な利用などにおいては『ライトハウス』の達成を引き継ぎつつも、無批判に恥ずかしげもなくかつての古典的な芸術映画の再現を狙っているかのようなエガース映画の姿勢には与せず、これまでにないジャンル映画の映像表現を追求するなかで、ブラシュケの才能を新たな角度から引き出したように見える。