ホーム » 投稿 » 海外映画 » レビュー » 21世紀最高の難解映画『マルホランド・ドライブ』をわかりやすく解説。深く知るほど怖い…。意味不明な壮絶ラストを徹底考察 » Page 6

メタファーが生み出す重層的な物語〜映像の魅力

デイヴィッド・リンチ監督とナオミ・ワッツ(2001年)
デイヴィッドリンチ監督とナオミワッツ2001年Getty Images

本作の映像には、さまざまな解釈ができる伏線がメタファーという形であちこちに散りばめられている。実際に、リンチ自身が公開した「映画を理解するための10のヒント」から、いくつか紹介しよう。

1・映画の冒頭に、特に注意を払うように。少なくとも2つの手がかりが、クレジットの前に現れている。
2・赤いランプに注目せよ。
3・アダム・ケシャーがオーディションを行っている映画のタイトルは? そのタイトルは再度誰が言及する?
4・事故はひどいものだった。その事故が起きた場所に注目せよ。
5・誰が鍵をくれたのか? なぜ?
6・バスローブ、灰皿、コーヒーカップに注目せよ。
7・クラブ・シレンシオで、彼女たちが感じたこと、気づいたこと、下した結論は?
8・カミーラは才能のみで成功を勝ち取ったのか?
9・ウィンキースの裏にいる男の周囲で起きていることに注目せよ。
10・ルース叔母さんはどこにいる?

まずは1について。本作の冒頭では、踊る男女の姿がシルエットとして描かれる。これは、ダイアンが優勝したジルバ大会のダンスコンテストの映像だろう。

このカットでは、満面の笑みを浮かべるダイアンと並び、両親らしき老夫婦の姿が映る。しかしこの老夫婦、後半では謎の青い箱からちょこちょこと這い出てきたり、ドアの隙間から這い出てきて自殺寸前のダイアンを追い詰めたりする。そう考えると、この老夫婦は実在の人物ではなく、ハリウッドへのダイアンの憧憬が擬人化したものと考えるのが自然かもしれない。

続いて、9について。このシーンでは、レストランのウィンキーズを訪れたダンが、ハーブに「壁越しに男がいる夢を2回見た」と語る。二人がレストランを出て壁伝いに進むと、いきなり顔が真っ黒な男が現れ、ダンはショック死してしまう。

夢ならではのなんとも不条理で不可解な展開だが、この真っ黒な男は、落ちぶれてホームレスになったダイアンのifの姿を表していると言えるだろう(「ダン」という名前も、「ダイアン」を連想させる)。

そして最後、10について。ルース叔母さんは現実の世界ではすでに亡くなっていることが明らかになるが、前半では複数のシーンに「カメオ出演」している。

例えば冒頭のダンスのシーンでは、ブレスレットなどから、黄色の服を着た女性がルース叔母さんであることがわかる。次に登場するのは空港のシーン。ここでは、タクシーに乗り込むベティの背後に、黄色いスカーフを巻いた姿で映り込んでいる。

しかし、彼女とベティが邂逅することはない。これは、「憧憬の象徴」であるルース叔母さんを、ダイアンが見逃してしまっていることを暗に示唆している。

ーさて、リンチはなぜここまで執拗に、あちこちにメタファーを散りばめるのか。それは、本作全体が「夢」だからに他ならないだろう。

私たちは、現実の思いや体験を、象徴という形で夢に見る。同じように本作でも、現実のダイアンの心情や境遇が、そのまま象徴という形で表れる。リンチは、これらのメタファーを駆使することで、複層的な物語を生み出しているのだ。

1 2 3 4 5 6 7