裏窓から見える人間模様~演出の魅力
「サスペンスの帝王」と称され、映画史に多大な影響を与えた名匠アルフレッド・ヒッチコック。そんな彼の最高傑作と言われる作品が、この『裏窓』だ。
主演は、『素晴らしき哉、人生!』(1946年)などで知られる往年の名優ジェームズ・ステュアート。原作はコーネル・ウールリッチ(ウィリアム・アイリッシュ)の同名小説で、「純粋に映画的な映画を撮れる可能性があったから」として、ヒッチコック自身が目を付けたという。
1954年の公開以来、長らく「視覚的快楽にまつわる映画」として語られてきた本作。主人公ジェフが「裏窓」から他人の生活を覗き見しあれこれと妄想を膨らませる様子は、SNSが普及した現在も変わらない人類共通の心性だ。
とはいえ、本作は単なる「のぞき見映画」ではない。男たちを手玉に取っているように見えて実は身持ちが固かった「ミス・グラマー」や、失恋の末に自殺を図るものの美しいピアノ曲が聞こえてきて踏みとどまる「ミス・ロンリーハート」など、個性的な住人達に注がれるヒッチコックの目線はあくまで優しい。
表通りからは伺えない「裏窓」だからこそ人間の本性が表れる―。本作には、そんなヒッチコックの人生哲学が詰まっているといえるかもしれない。