内面に葛藤を抱えた父

11歳のソフィに目を向けると、大人になろうと背伸びする様子を描いた、見事な成長物語になっている。年上のティーンエイジャーのグループと知り合い、ビリヤードの腕を披露し、恋愛について話す。両親は離婚しているが、電話で母と話す父の顔はとても穏やかだ。
実際、カラムは優しい父親で、それを感じさせる瞬間がいくつもある。しかし、軋轢が生じることもある。ステージで一緒に歌おうとして拒否されたのだ。一人になったソフィがさまよっていると、同年代の男の子と偶然出会い、キスを交わすまでになる。
翌日、父とも仲直りしダンスを踊る。空港で父と別れる際の屈託のない笑顔も印象的だ。これだけを切り取ると、10代の少女の心理的な成長と変化を上手く表現した青春映画のようだ。
その一方で、娘は気づかないが、カラムはメンタルヘルスに問題を抱えているらしく、たびたび深刻な表情を見せる。ビリヤードをしている際、兄妹のようだと言われてもまだ穏やかだったが、娘に金がないことを指摘されるときは顔が曇る。歌を拒否した場面では、娘から離れたあとに暗い夜の海へと入っていく。