“デジタル世界”と”アナログ世界”を往還する
当時、スティーヴン・スピルバーグ監督の映画『ジュラシック・パーク』(1993)や、キャメロン監督自身が製作した、映画『ターミネーター2』(1991)など、デジタル技術を駆使した映画が大ヒットを記録しており、映画界に革命を起こしていた。言い換えると、映画製作の技術的側面の変革がゆっくりと、確実に起こっていたのだ。
そんな中、『タイタニック』の製作において、キャメロン監督は、当時の最新の映像技術を駆使する”デジタル世界”と、フィジカルな模型を駆使した”アナログ世界”という2つの世界を行き来する必要があった。それは一重に本物らしさを追求するために他ならない。
キャメロンは、特に”アナログ世界”に製作の重きを置き、タイタニック号とその沈没シーンを克明に再現するため、メキシコのバハ・カリフォルニア州ロサリートに新しいスタジオ施設の建設した。
推定2000万ドルをかけた新スタジオである”バハ・スタジオ”は、サウンド・ステージ(防音部屋)と水槽が用意され、その内の1つには、海の地平線を撮影することができる、270度オーシャンビューの大きな地平線タンクも用意された。
米ワシントン・ポスト紙によると、この地平線タンクに、タイタニック号の大部分の実物大レプリカを建造し、1,700万ガロンの巨大タンクに収められたようだ。これにより、海と一体化した眺めを味わえ、クライマックスの沈没シーンのために、実物大の船の模型を水没させることが可能となった。また、大量の水を貯めるため用意された他2つのタンクは、船内の沈没シーンや、海に取り残された乗客を描くシーンに使用された。
映画『タイタニック』製作以来、この作品で使用された最先端のエンジニアリング技術と、映画的芸術性を組み合わせた偉業はほとんど試みられていない。しかし、『タイタニック』撮影にピッタリな、バハ・スタジオの設立は、映画監督の困難な仕事の始まりに過ぎなかったのだ。