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家族を通して現代社会の闇を描いた傑作ー演出の魅力

サム・メンデス監督
サムメンデス監督Getty Images

共同体の最小単位である家族。古くは小津安二郎の『東京物語』(1953年)から『パラサイト 半地下の家族』(2019年)に至るまで、家族の絆を通して人間の生の本質を描出した作品は枚挙にいとまがない。しかし、「毒親」という言葉があるように、関係性が破綻すると、親や子どもの人生に暗い影を落とす場合も往々にしてある。本作に登場するバーナム一家も、そんな「機能不全家族」だ。

本作は、アメリカのとある家族の破綻と崩壊を描いた不条理コメディ。監督は、『007 スカイフォール』(2012年)や『1917 命をかけた伝令』(2019年)で知られる名匠サム・メンデス。主演を『ハウス・オブ・カード 野望の階段』(2013年ー2018年)のケヴィン・スペイシーが務める。

エロティックなビジュアルイメージやタイトルから、ライトなラブコメと思われることが多い本作。しかし、その実態は、アメリカの現代社会の闇をえぐり出したような鋭い批判精神が光る秀逸なダークコメディーに仕上がっている。

なお、本作の監督であるメンデスは舞台演出家であり、イギリスで最も権威のあるローレンス・オリヴィエ賞をはじめ、さまざまな賞を受賞した大物として知られていた。そんな彼を映画の世界に引き摺り込んだのは、なんとあのスティーブン・スピルバーグ。舞台に感銘を受けたスピルバーグが、彼の制作会社のドリーム・ワークス伝いにメンデスに声をかけたという。

そんなスピルバーグの「鶴の一声」で制作された本作だが、第72回アカデミー賞の5部門(作品賞、監督賞、主演男優賞、脚本賞、撮影賞)のほか、ゴールデングローブ賞でも3部門(作品賞、監督賞、脚本賞)で受賞する快挙を達成。さらにアメリカ国内では興行収入1億3000万ドルという大ヒットを記録している。初監督作品にしていきなりオスカーを手にしてしまったメンデス。その才能に思わず驚嘆してしまう。

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