オーケストラと物音を組み合わせた完成度の高い音響表現
音楽を担当したのは、後に『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズにて2度のアカデミー賞作曲賞を受賞したハワード・ショア。サスペンスの神様ことヒッチコック作品で知られる、バーナード・ハーマンのスコアを彷彿とさせる、ストリングス中心のオーケストレーションがスリルをかき立てる。ちなみにショアは、本作と並ぶサスペンス映画の傑作として名高い『セブン』(1995)の音楽も手がけている。
クラリスとレクターが初めて面会するシーンでは、中盤まで音楽は用いず、2人の息詰まるようなやり取りを臨場感たっぷりに見せる。レクターがクラリスから質問リストを受け取ってからは、暗い波が押し寄せるような音楽がゆったりと鳴り始め、饒舌になるレクターの変化を際立たせる。
2人が対話をする描写は以降も繰り返されるが、いずれもシーンの冒頭にはサウンドトラックが使われず、会話が進行し、2人の関係性に変化が表れるにつれて、ゆったりと音楽が流れはじめ、上質な緊張感が生み出される。レクターのもとを訪れるクラリスは常に神経を研ぎ澄ませているため、音楽の力で一気にサスペンスを盛り上げるのではなく、足音や息づかいなど、即物的な音響を活かす方が、彼女の心情にコミットする上で効果的となる。観客の心理を知り尽くした、熟練の音使いである。
トマス・ハリスの原作では、レクターが愛聴するのはグレン・グールドが演奏するバッハの『ゴルトベルク変奏曲』である。映画版において同曲は、レクターが看守を殺害する直前のシーンで使用される。看守に襲いかかるアクションをきっかけに優雅なピアノの旋律は鳴り止み、ハワード・ショアによるショッキングなオーケストラに切り替わる。なんとも戦慄的な音楽効果だ。ちなみに劇中で流れる『ゴルトベルク変奏曲』はグレン・グールドではなく、ジェリー・ツィマーマンによる演奏音源が使用されている。
《主な使用楽曲》
『American Girl』トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズ
『Alone』コリン・ニューマン
『ゴルトベルク変奏曲』J・S・バッハ/ジェリー・ツィマーマン
『Goodbye Horses』ク・ラザロー
『Real Men』サヴェージ・リパブリック
『Hip Priest』ザ・フォール
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