パルプ・フィクション 映像の寸評
撮影監督のアンジェイ・セクラは、タランティーノの前作『レザボア・ドッグス』(1992)のカメラも担当。血生臭い描写に腕の冴えをみせるカメラマンである。
しかし、バイオレンス描写を芸術にまで高めた、マーティン・スコセッシ作品やサム・ペキンパー作品に比べると、本作の暴力シーンは美学的に洗練されておらず、未成熟な印象をもたらすのも事実。ヴィンセントが麻薬ディーラーの部屋でヘロインを購入するシーン、そのヘロインをミアが吸引するシーンでは、被写体の鼻孔を仰ぎ見るようなローアングルのカットが多用され、美しさよりも醜さ、品性よりも下劣さが強調されている。
とはいえ、本作のモチーフは安っぽくで低俗な「三文小説」(パルプ・フィクション)である。唐突でご都合主義的なストーリー展開、間延びした無駄話が人を惹きつけるのと同じように、チープで緊張感を欠いた映像にもユニークな魅力が立ち込めている。その最たるものが、ヴィンセントとミアがレストラン「ジャック・ラビット・スリムス」でディナーを共にするシーンだろう。
ハリウッドレトロをコンセプトとした店内には、マリリン・モンローを始めとした往年のスターの“そっくりさん”が闊歩しており、ケバケバしいイルミネーションも相まって、空間自体が薄っぺらく、作り物めいている。とはいえ、ヴィンセントとミアは一晩だけの即席カップルである。両者は仮そめの関係なのであり、過度にチープな映像はヴィンセントとミアによる泡沫(うたかた)のディナータイムを、身の丈にあったトーンで表現しているのだ。