長い道のりを経て練り上げられた珠玉のシナリオ〜脚本の魅力
本作の脚本を担当したのは、サム・シェパードとL・M・キット・カーソン。原作はシェパード自身が執筆した小説『モーテル・クロニクル』で、本編さながらの長い道のりを経て完成に至った。
本作が動き出したのは1981年。『モーテル・クロニクル』の草稿を読んだヴェンダースは、本作を脚色した脚本を執筆し、シェパードに送った。その後、一旦はシナリオが流れたものの、二人は「砂漠に現れた記憶喪失の男」というアイディアをもとに共同で脚本を書き進めていくことになる。
しかし、内容は二転三転。トラヴィスが昔のアルバムをもとに方々を訪ね歩く設定や、大地主であるジェーンの父親が彼女を監禁している設定が生まれては消え、ついに後半部分が未完のままクランクイン。撮影を進めながらシェパードが未完の部分を考えていくプランになったという。
ところが撮影も急激なドル高の影響などにより何度も中断を余儀なくされ、シェパードも現場から去ることになり、代わりにカーソンが脚本を担当。トラヴィスとジェーンがのぞき部屋で再会するクライマックスのシーンが描かれた。
このシーンは、本作で最も切ないシーンだろう。のぞき部屋に入ったトラヴィスは、マジックミラーの向こう側のジェーンから目を背け、空白の4年間を滔々と語って自らの過去と向き合う。客がトラヴィスであることに気づいたジェーンは、部屋の電気を消し、トラヴィスと会話する。のぞき部屋が暗い告解室に変わる。
なお、ヴェンダースがその後この展開をシェパードに送信。シェパードは、延々と語り合ったことがやっと見つかったと述べ、シーンのセリフを電話で伝えてきた。そう言った意味で本作は、制作そのものがロードムービー的であったと言えるかもしれない。