名優ハリー・ディーン・スタントンの演技に注目
本作の主人公・トラヴィスを演じるのは名脇役ハリー・ディーン・スタントン。2017年に逝去するまで、カルト映画から西部劇に至るまで200本以上の映画に出演してきた名優中の名優である。
トラヴィスは、本作前半ではほとんど喋らない。しかしスタントンは、そんな傷つきやすくナイーブな男を情感たっぷりに演じている。
また、トラヴィスの妻・ジェーンを演じるナスターシャ・キンスキーの演技も注目。彼女は『フィツガラルド』などで知られる名優クラウス・キンスキーの娘で、その美貌から、「ナタキン」の相性で話題になった。
とりわけ印象的なのがのぞき部屋でのシーン。ジェーンはマジックミラーの向こう側にいるのがトラヴィスであると知り、その人生に深く聞き入り静かに落涙する。彼女の繊細で抑制された演技が観客の胸を打つ。
スタントンにせよキンスキーにせよ、役者たちの演技が魅力的なのは、本作が順撮り(物語の進行に沿って撮影すること)で撮影されたことが大きいだろう。役の感情を自然な流れで積み重ねていけるため、役作りがしやすいのである。
なおスタントンはその後、遺作となった『ラッキー』で自らの死と向き合う偏屈老人を好演。そのさすらいぶりに、本作を想起せずにはいられない。