ブッチとサンダンスの”無様なかっこよさ”ー脚本の魅力
本作には、従来の西部劇にはない画期的な描写が見られる。それは、主人公2人がとにかく人間臭いことだ。
従来の西部劇は、どんな敵にも勇敢に立ち向かうフロンティア精神に溢れたヒーロー像が一般的だった。一方、本作の主人公2人は、ブッチとサンダンスは、滝壺に落ちたり、恋人であるエッタの家に隠れたりするなど、とにかく追っ手から逃げ延びることを選ぶ。そして、生活を改めるため、南米ボリビアに逃亡を図る。
とはいえ、ボリビアに来たからといって、彼らの生活がそう簡単に変わるわけではない。ボリビアが、ゴールドラッシュに湧く豊かな国ではなく、貧しい国であることがわかると、彼らはまた銀行強盗に立ち返る羽目になる。
そして遂には、連れ添ってきたエッタからも愛想をつかれ、アメリカに戻ってしまうー。なんとも情けなく泥臭いキャラクターだが、こういった彼らの不器用な姿は、過去のヒーロー像に固執する従来の西部劇への皮肉と考えることもできるかもしれない。
なお、先述のとおり、本作の物語は実在の物語がモデルとなっており、ウィリアム・ゴールドマンは、史実を調査し、8年もの歳月をかけて脚本を書き上げた。
ブッチとサンダンス、そして紅一点のエッタの3人には実在するモデルがいるとされており、登場人物のキャラクター設定や関係性は史実に則っている。とはいえ資料に乏しく、主人公2人のモデルとなった男たちは映画と同じくボリビアで命を落としたこととされているが、生存説も根強い。
ちなみに、ブッチとサンダンスが所属していた無法者集団「壁の穴(ワイルドバンチ)」も実在しており、その名もずばり『ワイルドバンチ』と題されたサム・ペキンパー監督作品では、実在した組織の興亡が鮮烈なタッチで描かれている。
閑話休題。公開当時、本作は従来の西部劇映画のイメージを引きずっているハリウッドでは「主人公が逃亡する」という物語によってなかなか受け入れられず、公開後も頭の固い批評家から目の敵にされたという。
一方で、ブッチとサンダンスの「無様なかっこよさ」に深く共感する、反体制的な若者たちも多く現れ、むしろ憧れの対象となっていった。本作がアメリカン・ニューシネマの傑作と言われる所以は、こういった経緯があるのだ。