陸海空から描く“史上最大の救出作戦”ー演出の魅力
1940年、第二次世界大戦中にイギリスが行った「ダイナモ作戦」を、陸海空の3視点から描いた作品。監督は『オッペンハイマー』(2023)でアカデミー賞作品賞を受賞したクリストファー・ノーランで、主人公のトミー二等兵を新人のフィン・ホワイトヘッドが演じる。
本作のテーマである「ダイナモ作戦」とは、フランスのダンケルク港に追い詰められた英仏軍の兵士40万人をイギリス本国へ脱出させる大規模な撤退作戦のこと。救出には、軍艦のほか、漁船や遊覧船といった民間船が徴用され、最終的には33万人のイギリス兵の救出に成功したといわれており、イギリスでは今なお逆境を乗り越えるための合言葉として「ダンケルクスピリット」という言葉が残っている。
ノーランは、そんな「史上最大の救出作戦」を、救助を待つ兵士の1週間、救助に向かう民間船の1日、ドイツ軍を駆逐するイギリス空軍兵士の1時間と、3つの異なる視点と時間を通して描出。『メメント』(2000)や『TENET テネット』(2020)といった時間軸を操作した「パズル映画」の名手であるノーランらしい手つきで、複雑な作戦の全容を立体的に描き出している。
なお、余談だが、「ダイナモ作戦」を語る上で欠かせないのが、作戦の発令者である名宰相ウィンストン・チャーチルだ。チャーチルは、作戦の成功後、本作のラストにも登場する歴史に残る名演説を行い、イギリス人の士気を大いに高めた。
ー我々は海岸で戦う、我々は水際で戦う、我々は平原と市街で戦う、我々は丘で戦う。我々は決して降伏しない。
第二次世界大戦の勝利の裏には、チャーチルの名采配があると言っても過言ではないだろう。気になる方は、本作と併せて『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』(2017)をご覧いただきたい。