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セリフをはぎ取ることで生まれるリアリティー配役の魅力

ハリー・スタイルズ
アレックス役のハリースタイルズGetty Images

本作では、ケネス・ブラナー(ボルトン海軍中佐役)やトム・ハーディ(ファリア役)、マーク・ライランス(ミスター・ドーソン役)といった芸達者のベテラン勢に混ざって、演劇畑出身の新人たちが多数起用されている。

特に印象的なのは、皿洗いのアルバイトからいきなり主役に抜擢されたというトミー二等兵役のフィン・ホワイトヘッドだろう。撮影では、クランクインの2週間前からダンケルクに入り、軍人たちと過酷な訓練を行っており、戦場の過酷さを毛穴のすみずみまで吸収し、演技としてアウトプットしている。

また、意外なところでは、アレックス二等兵役として人気ロックバンド、ワン・ダイレクションのメンバーであるハリー・スタイルズが出演。出演シーンがわずかながらも、強烈な存在感を放っている。

なぜノーランは、本作の主演に新人を抜擢したのか。それは、役者にリアリティを求めたからだろう。現にノーランは、「40代の俳優が20代を演じるような、わざとらしいことはしたくなかった」と語っており、俳優陣は若さとフレッシュさ、脆さを基準に選ばれたという。

なお、リアリティといえば、全編を貫く演技のモードにも言及しなければならない。登場人物の会話がほとんどないのだ。主演のトミーに至っては、ギブソンを救うために仲間に声を張り上げるシーンと、ラストのチャーチルの演説の朗読シーンしかない。

完璧主義のノーランだけに、当然こういった演出は織り込み済みだろう。現に彼はインタビューで、物語と映像のみで映像体験を成立させたかったと語っている。つまり、トミーたちは、ゲームのアバターよろしく目の前の映像と音響を感受する「受け皿」であり、われわれ観客自身でもあるのだ。

なおノーランは、本作の制作にあたり、サイレント映画の技法を徹底的に研究したという。険しい表情で目の前の脅威を見つめる彼らの表情は、千言万語に値するといってよいかもしれない。

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