観客の不安を煽る「無限音階」ー音楽の魅力
本作は、第90回アカデミー賞で作品賞をはじめとする8部門にノミネートされ、編集賞、録音賞、音響編集賞を受賞している。つまり、本作の最大のポイントは実は音響なのだ。
まず、作中では、ハンス・ジマーが手がけた冒頭の楽曲『The Mole』から、秒針の音が鳴り続けており、兵士たちに迫るタイムリミットをこれ以上ないほど巧みに表現している。この音は、その後環境音や心拍音に形を変え、観客の五感に無意識のうちにプレッシャーをかけ続ける。
そして、本作の音響を語る上で最大のカギとなるのが、「無限音階(シェパード・トーン)」と呼ばれる音響効果だ。
「無限音階」とは、アメリカの認知科学者のロジャー・シェパードが発見した錯覚現象で、簡単にいうと「実際は高くなっていないのに、音階が無限に高くなっているように聞こえる」現象のこと。具体的には、オクターブ分隔たった和音があり、高音部が消え始めた時に低音が入ってくるという連鎖がループするというもので、観客の緊迫感を否が応にも高める効果がある。
ノーランは、脚本執筆時からジマーと音楽を共有し、「無限音階」の性質に沿った形で本作の脚本を執筆。加えて、後半では、作中ではイギリス人にはお馴染みのエドワード・エルガー作曲『エニグマ変奏曲』の第9変奏「ニムロッド」を曲に織り込むことで、過度な緊張から観客を解き放つことに成功している。
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