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退役兵士が醸し出す戦場の香りー配役の魅力

ハートマン役のリー・アーメイ【Getty Images】
ハートマン役のリーアーメイGetty Images

本作の配役といえばキューブリックが「これまで仕事をしてきた中で最高の俳優の一人」と激賞するハートマン役のR・リー・アーメイを挙げなければならない。

海兵の父に育てられ、自身も海兵隊として活躍したアーメイ(階級も一等軍曹)。目をひん剥いて新兵たちを怒鳴りつける彼の演技は、本物の戦場の香りを宿しており、他の役者を完全に食ってしまっている。

なお、彼の起用には有名な逸話がある。実はアーメイ、当初はテクニカルアドバイザーとして起用されたが、演技指導で兵士役の役者たちを罵倒。その結果、激怒したり心身を病むものが続出したという。そして、そんな彼の様子を見たキューブリックが、急遽ハートマン役に抜擢したのだ(当初ハートマン役に想定されていたティム・コルセリは、戦闘シーンでドアガンナー役として出演)。

さて、そんなハートマンから罵倒されるのが、「ほほえみデブ」レナード・ローレンスだ。この役を演じるのは、ニューヨークで活躍する舞台俳優ヴィンセント・ドノフリオで、愚鈍さと狂気の二面性を見事に表現している。

なおドノフリオは、ローレンスを演じるにあたり、なんと体重を32キロも増量。その後9キロかけてゆっくり体重を戻したという。この記録は、『レイジング・ブル』(1980)で引退後のボクサーを演じるため、体重を27キロ落としたロバート・デ・ニーロを凌ぐ世界的な記録になる。

そして、主演のジョーカーを演じるのはマシュー・モディーンだ。恋愛コメディ『プライベイトスクール』(1983)でアイドル女優ファービー・ゲイツの相手役を務め大きな話題を呼んだモディーンだが、本作では人間性を徐々に喪失していく兵士を見事に演じている。

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