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ベトナム戦争を彷彿とさせる音楽の記憶ー音楽の魅力

演出中のスタンリー・キューブリック【Getty Images】
2001年宇宙の旅演出中のスタンリーキューブリックGetty Images

本作には、冒頭からベトナム戦争当時のヒットソングがちりばめられている。

まずはオープニング、新兵たちがバリカンで丸坊主にされるシーンで流れるのは、ジョニー・ライトによる1965年のヒットソング「Hello Vietnam」。「さようなら最愛の人、こんにちはベトナム」という大らかなカントリー調の音楽は、まだ見ぬベトナムに胸を高鳴らせる新兵たちの気持ちを表現するとともに、ベトナム戦争への痛烈な批判にもなっている。

後半部の冒頭、店のテラス席でビールを飲んでいるジョーカーたちをベトナム人の娼婦が誘うシーンで流れるのは、ナンシー・シナトラによる1965年のヒットナンバー「These Boots Are Made for Walkin’」。ポップな曲調とキュートな歌詞は、観光地気分で戦場にやってきたジョーカーたちの高揚感を表現している。

そして、極めつけは、ラストで流れる「ミッキーマウス・マーチ」だろう。燃え盛る戦場で、疲弊した兵士たちがゾンビのように行進しながら歌うシーンには、思わず戦慄を感じざるを得ない。

実はこの「ミッキーマウスマーチ」、ハスフォードの原作小説で既に登場しており、ネズミの埋葬シーンとフエの町の突撃シーンで歌われている。

また、映画本編では、トイレで自殺騒ぎを起こしたローレンスに対して、教官室から出てきたハートマンが「ミッキー・マウス・クラブのお祝いか?!」「どぶネズミがおれの便所でなに騒いでるんだ?!」と罵倒する。つまり、「ミッキーマウス」とは、人間性を喪失した兵士たち自身の自嘲的表現でもあるのだ。

加えて、「ミッキーマウス」は、ウォルト・ディズニーが生み出したアメリカを代表するキャラクターであることは改めて言うまでもない。つまり、「ミッキーマウス=どぶネズミ」とは、今なお戦争を繰り返す、アメリカという国家の鏡像だといえるだろう。

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