鬼才アリ・アスターによるホラー映画の最高傑作ー演出の魅力
本作は、『ミッドサマー』(2020)や『ボーはおそれている』(2023)で知られる鬼才アリ・アスター監督による長編デビュー作。主演のアニーを『シックス・センス』(1999)のトム・コレットが演じる。
子供の頃からホラー映画が大好きで、近隣のビデオ店をまわり、ホラー映画コーナーの作品を片っ端から見ていたというアリ。そんな彼の長年に渡る蓄積が結晶化した作品がこの『ヘレディタリ―』だ。
本作の特徴は、なんといっても過去のホラー映画やサスペンス映画の膨大な引用から成り立っているということだ。本作には、ロマン・ポランスキー監督の『ローズマリーの赤ちゃん』(1968)や『エクソシスト』(1973)など、正統派のホラー映画のモチーフが随所にみられる。むしろ、こういったモチーフを現代風にアップデートした作品といえるかもしれない。
また、近年のホラー映画にありがちなグロテスクな描写や、大きな音といった分かりやすいホラー描写が極力排除されているのも特徴だろう。その代わり、本作では緊張感のあるカメラワークや役者の表情、不快なノイズといった要素を巧みに配置することで、観客の緊張感を高めることに成功している。
なお、本作は、サンダンス映画祭で上映され、「21世紀最高のホラー映画」「直近50年のホラー映画の中の最高傑作」と激賞されている。そして、アリは、本作の翌年、『ミッドサマー』で、白夜の村を舞台とした“映画史上最も明るいホラー映画”を制作し、ホラー映画の新境地を開拓。配給を務めたA24も、この作品をきっかけに「インディーズ映画の雄」として飛躍していくことになる。