シニカルな笑いが満載のコーエン兄弟の代表作〜演出の魅力
本作は、『バートン・フィンク』(1991年)や『ノーカントリー』(2007年)で知られるコーエン兄弟が手掛けるクライムサスペンス。
主人公のマージ・ガンダーソン署長をジョエル・コーエンの妻であり女優のフランシス・マクドーマンドが演じる。
アカデミー賞で主演女優賞(フランシス・マクドーマンド)と脚本賞を受賞し、カンヌ国際映画祭では監督賞を受賞するなど、大きな話題を呼んだ本作。さぞ格調高い作品かと思いきや、シニカルな笑いを得意とするコーエン兄弟らしく、人を食ったようなユーモアがあちこちに散りばめられたコメディ作品に仕上がっている。
まず、本作のタイトル「ファーゴ」について。これは、米ノースダコタ州の地方都市だが、なんと登場するのはあくまで冒頭のみで、冒頭以降は事件の舞台であるブレイナードやジェリーたちが暮らすミネアポリスがメイン。コーエン兄弟によると、響きのクールさから「ファーゴ」をタイトルに選んだという。
加えて、本作の冒頭には、「この物語は実話である」というテロップが表示されるが、これも真っ赤なウソ。これも、地味に始まる本作を、普通のスリラーとして見せないようにするためのものだという。この辺りの遊び心もなんともコーエン兄弟らしい。
また、本作の舞台であるミネソタ州訛りのオフビートな会話も大きな特徴だろう。特に、現場検証を含め、マージが捜査をするシーンは、登場人物のミネソタ訛りも相まって、牧歌的ながら調子が外れた独特な雰囲気を醸し出すことに成功している。
ちなみに、コーエン兄弟含め、本作にはミネソタ州出身者が多数関わっている。そういう意味で本作は、ミネソタ州の風土を切り取った「ご当地映画」としての側面も持っていると言えるだろう。
本作はテレビドラマとしてリメイクされている。コーエン兄弟を製作総指揮に迎え、2014年から放送が開始されたドラマ『ファーゴ』は、タイトルと冬を舞台にしたクライムサスペンスである点などは映画版と同じだが、登場人物や設定は異なっている。とはいえ、随所に映画版を元ネタにしたエピソードも登場するので、本作のファンならば楽しめる内容となっている。