ウソと裏切りを象徴する「マイク・ヤナギタ」の存在〜脚本の魅力
脚本にも、コーエン兄弟らしいユーモアあふれる演出が散見される。
例えば、あらすじからも分かる通り、本作は冒頭で犯人や犯行過程を明らかにする「倒叙モノ」のスタイルをとっている。そのため、主人公のマージは、放映開始から30分が経ってからやっと登場するのだ。長い時間ジェニーたちのポンコツぶりを見ている観客たちは、「マトモな人」マージの登場にほっと胸を撫で下ろすこと請け合いだろう。
また、マージが車の中でハンバーガーを頬張るシーンなど、本筋とは一見関係のなさそうな間の抜けたシーンが多いのも特徴。中でも最も印象的なのが、本作中盤に登場する謎の日系人「マイク・ヤナギタ」だろう。マージの大学時代の同級生である彼は、妻が病気で死んだことを泣きながら話し、マージに接近する。しかし、この話が実は真っ赤なウソであったことが、後々明らかとなる。
とはいえ、このエピソードが本作と完全に無関係であるとはあまり思えない。ではなぜ、コーエン兄弟がなぜわざわざこの逸話を挿入したのか。この疑問を解く上でヒントとなるのが、「ミネソタナイス」だ。
「ミネソタナイス」とは、表裏のあるミネソタ州の人々の州民性を指す言葉。争いを避けるために温厚で謙虚で人当たりよく接しながらも、裏では他人を卑劣に攻撃するミネソタ州の人々の受動的攻撃性を表しているとされる。
ジェニーをはじめとする本作に登場する「小悪党」たちは、みな表向きでは真っ当な人物を演じながらも、自らの欲望のままに犯罪を犯し、他者を裏切って自滅していく。この意味で「マイク・ヤナギタ」は、ウソと裏切りに満ちあふれた本作そのものを象徴しているといえるかもしれない。