時系列を再構築する巧みな物語構成〜脚本の魅力
本作の脚本の魅力は、何よりも全体の構成の巧みさにある。あらすじからも分かる通り、本作でははじめにケーンの最期が写され、続いて架空のニュース映画でパブリックな人物像が伝えられる。その後、ニュース映画の記者がケーンが最後に呟いたセリフの謎を探るという形で、彼のプライベートな人物像が提示される。ケーン自身の主観を交えず、他者の視点を通して段階的にケーンの人物像に迫っていく。なんとも知的な構成である。
現在と過去を自在に行き来する編集にも注目。例えば、サッチャーがケーンにクリスマスプレゼントを送るシーンでは、「メリークリスマス アンド ハッピーニューイヤー」と言うサッチャーのセリフの間にカットが切り替わり、物語が十数年飛躍する。また、ケーンがライバル紙の記者の集合写真を見るシーンでは、写真がそのまま動き出し、ケーンの新聞社で彼らが集合写真を撮るシーンに遷移。ケーンがライバル紙の記者を引き抜いたことを1カットで表現している。なんとも鮮やかな手際である。
なお、本作で用いられる「フラッシュバック」は、1900年代に発明され、さまざまな映画ですでに使われていたものの、ここまで巧みに構成した作品は本作がはじめて。この点だけを見ても、いかに本作が画期的な作品だったかがうかがえるだろう。
また、虚構と現実を織り交ぜた展開も印象的である。例えば、冒頭のニュース映画では、ケーンがまるで実在の人物であるかのような演出が施されており、中にはあのヒトラーと一緒に映っている写真も含まれている。
映画の世界に足を踏み入れる前、ラジオ番組の脚本を書いていたウェルズは、H.G.ウェルズの『宇宙戦争』を脚色した朗読劇を放送。視聴者が火星人の襲来を事実と勘違いし、アメリカ全土がパニックに陥ったという話がまことしやかにささやかれている。
現実に虚構を潜ませる 。ラジオから映画へと引き継がれるこのウェルズの精神は、現在のフェイクドキュメンタリーにも通じる感覚だといえるかもしれない。