“映画の素人”ウェルズが編み出した数々の発明〜映像の魅力
ウェルズが編み出した斬新な演出は、本作の映像にもふんだんに盛り込まれている。本編ではそんな「発明」のうち、主だった3つを紹介しよう。
一つ目は「パンフォーカス」。この技術は、カメラの被写界深度を深くすることで画面内に映る全ての被写体にピントを合わせる手法のこと。手前で財産についての処理を進める大人たちを、窓の外では無邪気に遊ぶ少年時代のケーンを対比させて描くといったように、画面の奥行きを演出に生かすことが可能となった。なお、この演出は、のちに黒澤明やヒッチコックに引き継がれることになる。
二つ目は「ローアングル」。この技術は、低い位置から被写体を撮影する技術のことで、本作ではケーンの会話のシーンで使用することで、上から目線で人物を見下すケーンの尊大さを巧みに表現している。ちなみに本作では、ローアングルの撮影のためにわざわざ床に穴を開けてカメラを設置して撮影されたという。
三つ目は「超クローズアップ」。この技術は冒頭、「バラのつぼみ」とケーンがつぶやく口元の撮影で使われており、セリフの印象を観客に強く印象付けることができる。また、これらの撮影技法に加え、本作は照明のコントラストも効果的に使われている。
従来のハリウッドでは、被写体を明るい照明で撮ることにより、役者のシワを隠して若々しく見せるのが伝統だった。一方、本作では、照明で陰影を強調することによりケーンの老いの残酷さや人生の光と影が表現されている。こうした映像表現は、映画界の慣習に囚われない“映画の素人”だったウェルズだからこそ実現できた発明だといえるだろう。