こだわりぬいた映像表現ー映像の魅力
本作のリアリティ志向は、美術へのこだわりにもあらわれている。
例えば、レザーフェイスのマスクは、ソーヤ一家の一軒家を作り込んだデザイナーのロバート・バーンズの手で3パターン作成。また、ソーヤ一家の家のインテリアは、スタッフが大量の動物の死体を解体し、制作されたという。
極めつけは、作品のクライマックスでもあるソーヤ一家の晩餐のシーンだろう。演出・スタッフ総出で1日中かけて行われたこのシーンの撮影では、気温と照明の熱で卓上の肉料理が見る間に腐敗し、悪臭立ち込める中で行われたとのこと。
カメラワークや編集にもこだわりが感じられる。例えば、パムがソーヤ一家の家に入ってくるシーンでは、床一面に散りばめられた鳥の羽につまづくサリーを細かいカット割りで映した後、飾られた動物の骨のインテリアをなめるように映す。
クライマックスとなるソーヤの食卓のシーンでは、唐突に泣き叫ぶサリーの顔や目が唐突にクロースアップでインサートされる。観客のめまいを引き起こすようなこういった演出はカルト映画にありがちだが、新しいホラー映画をつくろうとするトビーの試行錯誤が感じられる。
また、本作は、予算の関係上通常の映画撮影で使われる35㎜フィルムではなく、粒子の粗い16㎜フィルムが用いられている。そのため、映像が全体的にチープで、まるで本物のスナッフビデオ(殺人ビデオ)を観ているような錯覚を観客にもたらす。
なお、猟奇的な雰囲気が漂う本作だが、意外にも作中ではスプラッターシーンが一切出てきておらず、殺人シーンもほとんどない。つまり、本作は、残虐なシーンの直前までを映像で見せ、肝心な部分は観客の想像に委ねるという、極めて上品な演出を施しているのだ。