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父親不在の「ガープの世界」ー脚本の魅力

ジョージ・ロイ・ヒル
ジョージロイヒルGetty images

あらすじからも分かるように、作中で描かれる「ガープの世界」には、成人男性がほとんど登場しない。

まず、ガープはフィールズが瀕死の兵士とセックスをして生まれた私生児であり、ガープ自身、父を知らずに成長している。

また、フェミニストであるフィールズ自身男性を毛嫌いしており、周囲を女性やトランスジェンダーで固めながら、独自のコミュニティを築いている。

この「ガープの世界」に足を踏み入れた成人男性は、去勢の憂き目に遭う。最も象徴的なのは、ヘレンの不倫相手であるマイケル・ミルトンだろう。

彼は、なんと車内でヘレンとオーラルセックスをしている最中に事故に遭い、ヘレンにペニスを噛みちぎられてしまう。

また、フィールズのコミュニティに出入りしている「エレンたち」も、ある種の去勢だと言えるだろう。彼らは、幼い頃にレイプされ、舌を自ら噛みちぎったエレンに共鳴し、自ら舌を噛みちぎっている。

失語症となった彼女たちの姿は、深い心の傷を負った弱々しい身体として立ち現れる。

本作は、そんな「弱い世界」の中で愛情たっぷりに育ったガープが、自身の子どもたちを世界の暴力から守るべく奮闘し、成長していく物語なのだ。

そして、この「ガープの世界」を俯瞰するためのモチーフが窓だ。

最も印象的なのが、ガープが小説『魔法の手袋』を書き終えた後に登場する窓越しの走馬灯だろう。

窓越しにサックスの演奏をするアパートの隣人を眺めるガープが、ブラインドの羽を一度閉じ、再び開くと、今度は、幼少期を過ごした母方の祖父母の海辺の家が映る。

また羽を閉じて開くと、今度はレスリングの光景が映る。ここからガープは、自身の人生をモチーフとした短編小説のインスピレーションを得るのだ。

そして、本作のラストでは、映画を観るといって家を抜け出したガープとヘレンが、ベビーシッターと遊ぶ息子たちの姿を車の窓越しに見る。

この描写は、子供たちの笑顔こそがガープが追い求めた幸せであり、この映画の結末なのだということを端的に示している。

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