人生という名のロードムービー
ヴェンダースは、これまで『都会のアリス』(1973)や『パリ、テキサス』(1984)など、数々のロードムービーを世に送り出してきた第一人者として知られている。彼の作品の主人公は、みな孤独を背負いながらあてどもなくさまよい、かりそめの出会いと別れを繰り返してきた。「人生は旅である」という古い言葉にならえば、この『PERFECT DAYS』もまたロードムービーだと言えるだろう。
本作の終盤では、平山が隅田川のほとりでとある男と出会う。癌を患っており、余命いくばくもないと語るこの男性は、平山にいきなり影と影が重なった部分は濃くなるのか、と問いかける。平山は、彼の問いかけに対して、実際に影を重ねて実験しようとする。それまでつながっていなかったお互いの人生が、一瞬だけ重なり合う。
本作最大の見せ場は、続くラストシーンだろう。男と別れ、再び日常に戻った平山が、またいつも通りのルーティンをこなし、仕事に出勤する。このシーンでは、ニーナ・シモンの名曲「Feeling Good」に併せて、首都高を走る平山の顔が、長回しで映される。
—It’s a new dawn, it’s a new day, it’s a new life for me
—夜が明けて、新しい一日が始まる、私は私の人生を生きる
朝日を受けて輝く平山の顔は、満ち足りたような笑みから、徐々に泣き顔へと変わっていく。その平山の表情には彼の人生の悲喜こもごもが全て凝縮しているとともに、人生という名のロードムービーを見る観客の顔のようにも感じられる。この平山の顔からは、私たち誰もが自分の人生を生きており、誰もが人生の観客なのだという強いメッセージが感じられる。