BLが人々にもたらす多幸感の正体
恋愛砂漠で値踏みされてきた女性たちの広大なオアシス
今年2023年、中国の大河ファンタジーBL『魔道祖師』の特集が組まれた文芸誌『すばる』6月号が飛ぶように売れ、月刊化以来初めて重版されるなど、BLの市場価値は世界的に無視できないものになっている。
そもそもなぜ人々はBLを摂取するのだろうか。日本でBL文化が発展した理由は何か。
ここでは主な消費者層である女性目線での話をするが、私は「安全な立場から安心して萌えられる」ところにBLの魅力があると考える。そこには今日に至るまで女性が置かれてきた境遇と、社会的な背景が潜んでいる。
2022年4月に改訂がされるまで、男性の結婚可能年齢18歳に対し、女性は2歳も下の16歳であった。このことからも分かるように、日本人女性は男性よりも早く結婚市場に投げ込まれてきた。昔に比べて多様化が進んだとはいえ、男性からの承認が女性にとって最も重要だとする風潮は未だ根強く残っている。
そして、世に溢れるラブストーリーの多くはヘテロセクシュアル(異性愛者)の男女のものだ。女性的価値を計る目線に慣れてしまった女性たちは、物語の女性側に恋愛市場・結婚市場における自分を投影せざるを得ない。娯楽として漫画や映画やドラマを観ているのに、知らず知らずのうちに現実へと引き戻され、登場人物と自分を比べて病んでしまうのである。
その点、BLは男性同士の恋愛なので、端から自分には入り込む余地がない。
さらには、『美しい彼』で用いられているような視点切り替え手法によって、「神の視点」に立つことができる。自己を介在せず、安心して傍観者の立場をとりながら、美しい男子と美しい男子が繰り広げる美しい世界を堪能できるのだ。
また、ひらきよCP(カップリング:恋人関係となる組み合わせのこと)の魅力は、何と言っても清居が受け(性的な意味で受け入れる側のこと。対義語:攻め)であることだ。
普段は王様のように振る舞う清居が、ひとたび平良の腕の中に入れば頬を赤らめ目を潤ませるその可愛さ。このギャップはBLならではだ。異性同士の恋愛だと、女性は受け入れる側になることが決定事項なので、関係性のバリエーションが少ない。BLでは年齢・職業・性格・そして受け攻めの掛け合わせを自在に創造できるため、可能性が無限大なのだ。
今や世界的に発展を遂げるBLコンテンツは、異性愛がスタンダードとされる社会で疲れ果てた女性たちにとって、広大な可能性を秘めた安息の地なのである。