映画オリジナルのラストシーンに注目
時には激しくぶつかり合いながらも、心の深いところで繋がっている政次郎と賢治。両者を分かつことになるのは、1930年代当時、不死の病の一つであった結核菌である。かつて、賢治から腸カタル(腸粘膜の炎症)をうつされた政次郎だが、今度ばかりは勝手が異なり、衰弱していく我が子に成り代わることは叶わない。
直木賞を受賞した門井慶喜の同名小説を脚色した坂口理子によるシナリオは、基本的に史実に則した形で構成されている。しかし、賢治が亡くなるクライマックスでは、史実をあえて踏み越え、映画オリジナルの展開を大胆に採り入れている。
史実において政次郎は、賢治の死に目に立ち会うことはできなかったが、映画では息子の傍らで死を看取るのだ。このシーンで政次郎は、賢治が紙に書きつけた、とある詩を読み上げる。質屋を生業とする政次郎と、金銭によってもたらされる豊かさを否定する賢治の思想は相容れないように見えるが、すれ違いを繰り返してきた親子の心は、詩の朗読という一点において重なる。
クライマックスにおいて、観る者は涙ながらに賢治の死を看取ることになる。しかし、物語はまだ幕を下さない。成島出監督を始めとした製作陣は、ラストシーンにおいて、さらにもう一点、史実とは異なるアレンジを加えている。
映画ならではの表現で描かれる、我が子に先立たれた政次郎の魂を救うラストシーン。それを観るためにも、ぜひ映画館に足を運んでほしい。
(文・山田剛志)
【作品情報】
出演:役所広司 / 菅田将暉 森七菜 豊田裕大 / 坂井真紀 / 田中泯
監督:成島出
原作:門井慶喜「銀河鉄道の父」(講談社文庫)
脚本:坂口理子 音楽:海田庄吾
配給:キノフィルムズ
製作:木下グループ
制作プロダクション:キノフィルムズ / ツインズジャパン 配給:キノフィルムズ
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(映画創造活動支援事業)独立行政法人日本芸術文化振興会
Twitter:@Ginga_Movie2023
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