戦争への批判を込めた戦闘映画ー脚本の魅力
本作の舞台は、戦間期のイタリア。世界恐慌を経てファシストが台頭し、第二次世界大戦へと突入していく、人類史上最も不安定な時代だ。しかし本作では、戦争に関する話題は会話の端々に登場するのみで、真正面から取り上げられることはない。また、マルコと空賊も、お互いの対決を陰惨な殺し合いではなく「決闘」と位置付けて興行にしている。ここには、「戦争を描きたくない」という宮崎自身の強い意志が垣間見える。
また、こうした宮崎の趣向は、主人公マルコのキャラクターにも垣間見える。大きな国家に与せずに一匹狼を貫き、決闘の際には決して相手を殺めることのないマルコ。その姿勢には、宮崎なりの美学すら感じられる。
短編映画として考えられていた本作は、当初、肩の力を抜いて楽しめる「お色気コメディ映画」として制作される予定だった。しかし、制作途中に湾岸戦争が勃発。徐々に話が変わっていったのだという、本作には、宮崎が抱いた反戦感情が如実に反映されているのかもしれない。
なお、本作のパンフレットには、ポルコが「迫り来る新たな戦争を前に再び国家の英雄になることを拒み」、自らブタになる魔法をかけたと記されている。この設定には、かつて空軍のエースパイロットだったマルコの戦争に対する複雑な感情が隠されているのかもしれない。