市子の選択から考察できること
市子が背負う悲劇はその後の展開でさらに深刻さを増すが、詳しい内容は各自の目で確かめてほしい。
市子という女性は、感情が欠落していると先述した。しかし、それは間違っている。
どんな悲劇にも耐え抜いた市子は、長谷川のことを自分の命より大切に思ったからこそ失踪したと考えることができるからだ。
「普通の幸せ」を願うも、それが叶いそうになった途端に幸せが逃げていく。その歯がゆさ。特別な境遇で育った市子の人生を描く本作は、誰もが身に覚えのある普遍的な感情を描くことで、2023年を代表する日本映画の一本となった。
(文・タナカシカ)
【作品情報】
タイトル:『市子』
出演:杉咲花、若葉竜也、森永悠希、倉悠貴、中田青渚、石川瑠華、大浦千佳、渡辺大知、宇野翔平、中村ゆり
監督:戸田彬弘
脚本:上村奈帆
撮影:春木康輔
照明:大久保礼司
録音・整音 吉方淳二
美術:塩川節子
音楽:茂野雅道
原作:戯曲「川辺市子のために」
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