三船敏郎が体現するサムライの美学ー配役の魅力
本作の配役といえば、まず挙げるべきは主人公である桑畑三十郎役の三船敏郎だろう。
『羅生門』『七人の侍』『隠し砦の三悪人』と、すでに「侍」として複数の黒澤作品に出演していた三船。スタイリッシュな殺陣と天衣無縫の自由さが共存する三十郎は、そんな彼の美学を凝縮したキャラクターといえるだろう。なお、三船は本作でヴェネツィア国際映画祭の男優賞を獲得。名実ともに「世界のミフネ」となった。
また、本作には、三船や志村喬、藤原釜足、東野英治郎といった黒澤組の常連をはじめ、個性豊かな役者陣が複数登場している。
とりわけ印象的なのは、新田の丑寅役の山茶花究や番田の半助役の沢村いき雄、棺桶屋役の渡辺篤といった浅草を中心とする喜劇役者たちの活躍だ。彼らの軽妙で深みのある演技が本作を楽しめる喜劇にしている。
そして、丑寅の用心棒である閂(かんぬき)を演じるのは台湾出身のプロレスラー羅生門綱五郎だ。2メートル越えの抜群の存在感と往年のジャイアント馬場そっくりの容姿が印象的な綱五郎。作中では、監禁した三十郎を華麗に投げ飛ばすなど、さまざまな見せ場が用意されている。
本作が公開された1960年は、ちょうど力道山によるプロレスブーム花盛りの時期だ。黒澤が本作を一種の「興行」として考えていたというのもあながち間違いではないかもしれない。