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登場人物の素を表現した哀愁たっぷりの音色ー音楽の魅力

映画『十二人の怒れる男』のワンシーン【Getty Images】
映画十二人の怒れる男のワンシーンGetty Images

ストイックな演出が印象的な本作では、音楽も饒舌にならないよう最小限にとどめられており、オープニングやトイレのシーンなど、場面転換のシーンでしか用いられていない。

つまり、本作の音楽は、映画の雰囲気を盛り上げる劇伴ではなく、どちらかといえばスムーズな場面転換を促す「つなぎ」としての役割を担わされている。

とはいえ、本作で唯一例外的に音楽で登場人物の感情を表したシーンがある。サックスやクラリネットの哀愁漂う音楽が印象的な、ラストのシーンだ。

審議が終わり、陪審員たちが続々退室する中、陪審員3番は、被疑者の少年と自身の息子を重ね合わせていることに気づき、泣き崩れている。8番は、そんな3番を目の当たりにし、彼の肩にそっとコートをかける。

続いて、画面は裁判所の外に切り替わり、何事もなかったかのような面持ちでそれぞれの日常へと戻っていく陪審員たちを映している。8番と鉢合わせた9番は、彼にそっと名前を尋ねる。8番は、自分の名前はデイヴィスであると名乗り、雑踏へと姿を消すー。

このラストのシーンは、それまで喧喧諤諤の議論を交わしていた陪審員たちが、はじめて素の感情を出したシーンでもある。だからこそ、このシーンには、役者の感情を表現する音楽が必要となるのだ。

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