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アメリカの夜 配役の魅力

ジュリー役のジャクリーン・ビセット(右)とアルフォンス役のジャン=ピエール・レオー。
ジュリー役のジャクリーンビセット右とアルフォンス役のジャン=ピエールレオーGetty Images

本作で描かれる劇中劇『パメラを紹介します』のストーリーは「夫の父を愛してしまったパメラが、苦悩の末に離婚を決意し、義父と一緒になる」というもの。パメラを演じる女優・ジュリーに扮するのはイギリス出身のジャクリーン・ビセットである。マスコミのカメラに向ける透きとおった眼差し、鏡の前で身だしなみを整えながらシナリオの読み合わせをする仕草など、女性映画の名手・トリュフォーによって捉えられた一挙手一投足は、ため息が出るほど美しい。

トリュフォー扮する監督のフェランはジュリーの魅力を「強さと同時に脆さを持っている」と評するが、それは本作におけるジャクリーン・ビセットの魅力をも的確に言い表している。失恋のショックで現場から逃亡しようとする共演者のアルフォンス(ジャン=ピエール・レオ)を、体を張って引き留める姿は凛々しい。一方、アルフォンスと肉体関係を持った直後、夫にその事実が知れ渡ると、精神のバランスを崩し、部屋に引きこもる姿はなんとも痛ましい。映画制作現場で生じるすったもんだを喜劇的なトーンで描いた作品ではあるが、女優の表面と裏面、栄光と受難を辛辣なトーンで描いた作品でもあるのだ。

ヒロインであるジュリーが成熟した存在として描かれるのに対し、男たちはみなどこかしら幼さを感じさせる。ジャン=ピエール・レオ演じるアルフォンスは、懇意にしていたスタッフの女性が他の男と駆け落ちをすると、ショックのあまり撮影を放り出そうとする。ジャン=ピエール・レオはトリュフォーの自伝的作品である長編第一作『大人はわかってくれない』で主演を務め、その後もトリュフォーの分身として、数多くの作品に出演。

情緒不安定なアルフォンスに愛を持って接するフェラン監督という構図は、実際にレオとトリュフォーが結んでいる関係の生き写しであり、フィクションを超えたリアリティがある。映画をかぎりなく現実に近づけようとするトリュフォー特有のリアリズムは、キャスティング面でも際立っている。

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